健康に良いと言われるルイボスティー…本当に血糖値を下げる効果あるの?
栄養科学研究科、栄養科学部 健康栄養学科 嶋田 昌子
共同研究者:
栄養科学研究科 博士前期課程 佐々木 萌絵
栄養科学部 健康栄養学科 西田 奈美
共同研究者:
栄養科学研究科 博士前期課程 佐々木 萌絵
栄養科学部 健康栄養学科 西田 奈美
研究概要
本研究は、健康栄養学科の西田奈美さんが「ルイボスティーの健康に及ぼす影響に関する最新の知見について」という卒業研究テーマを自分で設定したことから始まった。当時は、正直なところ私はルイボスティーなど聞いたこともなかったので、研究テーマとして何か新しい発見に繋がるものなのか半信半疑であった。しかし、卒業研究の授業にみんなで試飲するルイボスティーのサンプルを持参したりする彼女に、このテーマに対する強い情熱を感じて研究を自由に遂行してもらうことにした。卒業研究論文で彼女は、PubMedのデーターベースで予め定めたキーワード検索して得られた128の英語論文を、糖尿病、心疾患、肝臓病、その他に大別し、その内容を極めて正確に理解してまとめ、結果を正しく考察していた。彼女の論文から新たにルイボスティーのユニークな特性を学んで興味を抱くようになっていた私は、ルイボスティーが糖尿病の病態を改善させる有効性について彼女の研究結果に科学的客観性を付加する方法ついて考えるようになった。
こうした経緯で卒業研究論文を基盤としてさらに博士課程レベルの研究へと発展させたものが今回国際誌に掲載された本研究である。糖尿病マウス、ラットの血糖値がルイボスティーやその関連ポリフェノールの投与によりどう変化するのかを、いくつもの統計解析を合わせて客観的に判定したことが、本研究の着眼点の新しさであり、評価された点である。論文発表から1年未満であるが、欧米、中国を中心に世界中から1200件以上の本論文へのアクセス、1400件以上のダウンロードがある。
こうした経緯で卒業研究論文を基盤としてさらに博士課程レベルの研究へと発展させたものが今回国際誌に掲載された本研究である。糖尿病マウス、ラットの血糖値がルイボスティーやその関連ポリフェノールの投与によりどう変化するのかを、いくつもの統計解析を合わせて客観的に判定したことが、本研究の着眼点の新しさであり、評価された点である。論文発表から1年未満であるが、欧米、中国を中心に世界中から1200件以上の本論文へのアクセス、1400件以上のダウンロードがある。
研究の背景
国際糖尿病連合(International Diabetes Federation)によると、糖尿病患者の数は、2017年に4億2,500万人であり、2045年には6億2,900万人にまで増加すると予測されている。その中でも2型糖尿病患者はその約90%を占め、糖尿病に併発する深刻な合併症やそれによる早期死亡率の高さなどを考えると、新しい治療法の開発が急がれている。ところで近年、ハーブティー、漢方薬、砂漠に生育する植物などの自然食品を糖尿病などの疾患の発症予防や治療に利用するという"Neutraceuticals(栄養補助食品)"の概念が世界的に注目されている。こうした背景を踏まえ、本研究では最近日本でも健康茶として店先によく見かけるようになったルイボスティーの糖尿病動物の血糖値への効果について、メタ解析という統計解析の方法を用い詳細に検討した。ルイボスティーの糖尿病患者の血糖値などへの効果を検討した論文報告は未だなされていないのが現状である。
研究成果
PubMedとEmbaseという2種類のデーターベースで本研究のキーワード検索にて135の英語の論文を選定した。ここから、予め定めた選定基準により、最終的に論文の全文検討から12論文を抽出した。その12論文のデーターを用いてまずフォレストプロットを作成したところ、ルイボスティーあるいは、関連ポリフェノール投与群で血糖値が有意に低下するという結果が得られた。ただし、論文間の違い(異質性)が67%と高かった。次に、この異質性の原因をサブグループ解析、メタ回帰解析によってさらに詳しく検討した。その結果、異質性の原因は、ルイボスティーの発酵処理の有無や含有ポリフェノールの種類と、それらの投与期間の違いなどによることがわかった。また、抽出された文献には明らかな研究の質的な差や、論文間の偏りは認められなかった。以上のことから、ルイボスティーの糖尿病マウス・ラットの有意な血糖値の低下作用は含有されているポリフェノールのうち特にPPAGという物質でみられることがわかった。
これからの展望や社会的意義
前述したようにルイボスティーのヒトの血糖値に対する有効性を調査した研究はまだ発表されていない。ヒトと動物ではポリフェノールの代謝などに違いがあるため、今回の結果がすぐにヒトに適応されるわけではないという限界はある。しかし、今回の動物実験でまとめた結果から、今後ヒトにおける臨床研究の足がかりになりうるという科学的な意義はあったと思う。
専門用語の解説
- ルイボス:ルイボスは、世界中で唯一、南アフリカ共和国のケープタウン北に広がるセダーバーグ山脈のごく限られた地域だけに自生する針葉樹様の葉をもつマメ科植物。ルイボスティーはノンカフェイン、低タンニン飲料でバランスよくミネラルや抗酸化作用のあるポリフェノールを多く含んでいる特徴がある。
- 糖尿病:膵臓から分泌される血糖値を低下させるホルモンであるインスリンが分泌できない、あるいは、分泌されても体の各組織でうまく作用できないことによって血糖値が高くなる病気。
参考文献
- Moe Sasaki, Nami Nishida, and Masako Shimada. A Beneficial Role of Rooibos in Diabetes Mellitus: A Systematic Review and Meta-Analysis. Molecules 2018, 23, 839.