昭和レトロな地方映画館をプラットフォームとした地域活性化の実践的研究
*本研究は相模女子大学2018年度特定研究助成費(C)「「地域活性化プラットフォーム」としての地方映画館の可能性~秋田県大館市「御成座」を舞台に~」の成果です。
人間社会学部社会マネジメント学科 山本 匡毅
共同研究者:人間社会学部社会マネジメント学科 井坂聡
人間社会学部社会マネジメント学科 奥貫妃文
人間社会学部社会マネジメント学科 山本 匡毅
共同研究者:人間社会学部社会マネジメント学科 井坂聡
人間社会学部社会マネジメント学科 奥貫妃文
研究概要
地方映画館は昭和レトロの懐かしさがあるものの、地域住民にとっては古い映画館の価値認識や認知度の低さがあり、地域活性化における問題となっていました。そこで調査において市外出身の学生が実態調査を行うことで、地方映画館の再評価を試みました。その上で学生が発見した地方映画館の価値をシビックプライドに変換するイベントを3回実施しました。かかる取り組みによって、大学生が弱い紐帯(つながり)を作り、映画館×住民、映画館×行政、映画館×小学校などの新たなネットワークを構築できることが分かりました。また地域住民から地方映画館を認知、評価する声を頂くようになりました。このように市外の大学生は外部の立場から地域資源を再評価することで、地域イノベーション(新たな価値創出)を起こすことにつながっています。
研究の背景
人口減少が進む地方都市は、数々の地域活性化に取り組んでいます。しかしハード(博物館や球技場など)の建設は、地域活性化に十分に結びついていません。また自治体は財政危機の中で、地域活性化のための選択肢が減って来ています。その中でソフト面の地域活性化に注目が集まっています。ソフトとしての地域の歴史的資源の研究は、人文地理学、都市計画学などの蓄積があります。しかしシネマコンプレックス(複数の映画館が入っている大型施設)全盛期における地方映画館の再生は、研究がほとんど存在しませんでした。そこで、地方映画館を舞台とした地域活性化の研究を始めました。
研究成果
地方映画館を舞台とした地域活性化を研究するためには、フィールドワークによる調査が大切です。地方映画館がどのような人によって経営されているのか、映画館の建築はどのような構造かなどを現地調査で丹念に聞き取り、資料収集を行っていきます。聞き取りの対象は映画館に関わる方、行政職員、地域住民のように設定し、ステークホルダーにはできる限り聞き取りを行います。また資料館訪問やフィールドワークによって映画館や地域活性化に関わる写真資料、映像資料を多く収集しました。その結果、地方映画館には映画館を支える多くの住民がおり、その価値を知りたいと思う住民も多いことが明らかになりました。
これからの展望や社会的意義
本研究では地方映画館がネットワークを通じて認知度を高め、シビックプライド向上に結び付くという定性的な結果が明らかになりました。今後、地方映画館が地方都市のシビックプライドの向上につながり、自治体の地方創生に貢献できるよう、行政と連携した取り組みを行います。また本研究からスピンアウトした学生プロジェクト「Discover大館」は、これからも大館市の地域資源を活用したシビックプライド向上に貢献していく予定です。
専門用語
- シビックプライド:地域に暮らす住民による「地域に対する誇り」のことを意味する言葉です。例えばアメリカ合衆国のニューヨークでは“I love New York”という形でシビックプライドを表現します。それに比べると日本の地方では特にシビックプライドが低く、進学や就職を契機として大都市へ人口移動しているのが実情です。
- ステークホルダー:利害関係者を意味する言葉です。例えば映画館に関係する利害関係者は、経営者、お客さん、映画館を応援する住民、飲み物や食べ物を納入する業者、施設を整備する企業、映画館を取材するテレビ局などが挙げられます。
参考文献
本研究の枠組みは以下の研究成果に依拠しています。
- 山﨑朗・杉浦勝章・山本匡毅・豆本一茂・田村大樹・岡部遊志(2016)『地域政策』中央経済社
- 山本匡毅(2019)「大学の地域連携と地方創生政策―山形県を事例として―」『人間社会研究』(相模女子大学)第16号、pp.135-148.