電子メールコミュニケーションにおける感情の伝達
相模女子大学学芸学部メディア情報学科 加藤 由樹
共同研究者:東京女子大学現代教養学部 加藤 尚吾
共同研究者:東京女子大学現代教養学部 加藤 尚吾
自己紹介
私は、相模女子大学学芸学部メディア情報学科に所属する加藤由樹と申します。インターネットにおける人間の心理や行動を研究のテーマにして、主に基礎研究をしております。このテーマで考えられる応用は、例えば政治や経済、カルチャー等多岐に渡りますが、私が最も興味を持っておりますのは、教育への応用です。AI時代を担うことになるこれからの子ども達に対して、インターネットやデジタル機器を教育場面でどのように活用することが望ましいのか、この問いを念頭に置いて、基礎研究をしております。
研究概要
インターネットが普及した現代では、コンピュータを介した遠隔の相手との文字のやりとりも、日常的なコミュニケーション形態の一つになった。文字のやりとりでは、相手の顔が見えなかったり、声のトーンがわからなかったりと、様々な非言語情報が失われる。従って、対面等のコミュニケーションに比べると、感情の伝達が難しいと言われる。そこで本研究では、代表的な文字のコミュニケーションである電子メールで、どのような感情が伝わりやすく、どのような感情が伝わりにくいかについて、実験を行って調べた。その結果、ポジティブ感情は正しく伝わる傾向があるのに対して、ネガティブ感情や敵意感情は誤って伝わる可能性が高いことがわかった。
研究の背景
インターネット上のコミュニケーション(computer-mediated communication、CMCと略す)に関する初期の研究(主に80年代)は、非言語情報が欠如している点に注目して、CMCは対面コミュニケーションよりも劣っていて、感情的なすれ違いやトラブルが起こりやすいと結論づけてきた。しかし、90年代には、CMCでも工夫をすることで、感情伝達のあるコミュニケーションが十分に可能であることを示す研究が報告されるようになった。例えば、顔文字の利用やメッセージを送信するタイミング等(Kato他, 2015)である。
以上のように、文字のコミュニケーションでも、様々な工夫によって非言語手がかりを表現して、感情を伝達できることは理解できる。しかし一方で、現在でも、電子メールやLINE等のメッセンジャー、Twitter等、様々な文字のコミュニケーションで、感情的なトラブルが生じていることは身の周りの経験からも、報道からも事実である。そこで、文字のコミュニケーションにおける感情伝達を詳しく調べる必要がある。
以上のように、文字のコミュニケーションでも、様々な工夫によって非言語手がかりを表現して、感情を伝達できることは理解できる。しかし一方で、現在でも、電子メールやLINE等のメッセンジャー、Twitter等、様々な文字のコミュニケーションで、感情的なトラブルが生じていることは身の周りの経験からも、報道からも事実である。そこで、文字のコミュニケーションにおける感情伝達を詳しく調べる必要がある。
研究成果
文字のコミュニケーションとして、電子メールに注目し、特に、うまく感情伝達ができている場合とできていない場合で、どのような感情が影響をしているかを調べるための実験を行った。
22名の実験参加者に2人1組で電子メールを使って実際にコミュニケーションをしてもらった。この過程で、各実験参加者に次の二つを求めた。(1)相手から受け取った電子メールを読んで相手の感情を解釈する、(2)自分が送る電子メールを読んだ相手に生じる感情を予測する。また、実験参加者には、電子メールを書いて送信した時と相手の電子メールを受け取って読んだ時に、その時の感情状態も尋ねた。すなわち、実際の感情状態と感情の解釈・予測との間で、一致度を見ることで、感情伝達の正確さの程度が決まる。
分析では、これらの一致の程度に基づいて、実験参加者を感情伝達の高群と低群の2群に分けて、電子メールコミュニケーションの過程で生じていた感情を比較した。分析の結果、感情伝達の低い実験参加者は、有意に高く敵意感情やネガティブ感情を生じていた(図1参照)。このことから、感情伝達の程度が低いことと不快な感情の経験が高いことの関係が示唆された。
22名の実験参加者に2人1組で電子メールを使って実際にコミュニケーションをしてもらった。この過程で、各実験参加者に次の二つを求めた。(1)相手から受け取った電子メールを読んで相手の感情を解釈する、(2)自分が送る電子メールを読んだ相手に生じる感情を予測する。また、実験参加者には、電子メールを書いて送信した時と相手の電子メールを受け取って読んだ時に、その時の感情状態も尋ねた。すなわち、実際の感情状態と感情の解釈・予測との間で、一致度を見ることで、感情伝達の正確さの程度が決まる。
分析では、これらの一致の程度に基づいて、実験参加者を感情伝達の高群と低群の2群に分けて、電子メールコミュニケーションの過程で生じていた感情を比較した。分析の結果、感情伝達の低い実験参加者は、有意に高く敵意感情やネガティブ感情を生じていた(図1参照)。このことから、感情伝達の程度が低いことと不快な感情の経験が高いことの関係が示唆された。
図1 感情伝達の高群と低群で生じていた感情の比較(出典:Kato他 (2007), Fig. 5.)
これからの展望や社会的意義
この研究の知見を支持する結果が、その後、私達が行った顔文字の研究(加藤他, 2007)等でも得られた。従って、電子メール等の文字のコミュニケーションにおいては、ポジティブ感情は伝わるが、ネガティブ感情は伝わりにくく、誤解が生じやすいと言える。この研究知見の社会的意義としては、例えば、情報教育において、現代の子ども達がメールやLINE、様々なソーシャルメディアで文字のやりとりをする際には、伝わりやすい感情、伝わりにくい感情があることをしっかりと教えていくことが、すれ違いや誤解によって生じるトラブルを軽減するためにも必要である、ということがある。
今後の展望として考えられるのは、感情伝達において私達はいつでも自分の本当の感情を相手に伝えたいと思っているのか、という、この研究では欠落した部分の検討である。すなわち、実際の感情状態、相手に伝えたい感情(表現した感情)の二つを分けて、検討する必要がある。実は私達は、既に図2の枠組みで新たな実験も行っている。詳細な結果はまだこれからであるが、とりあえず速報(加藤他, 2018)は公表済みであるので、興味があれば参照してほしい。
今後の展望として考えられるのは、感情伝達において私達はいつでも自分の本当の感情を相手に伝えたいと思っているのか、という、この研究では欠落した部分の検討である。すなわち、実際の感情状態、相手に伝えたい感情(表現した感情)の二つを分けて、検討する必要がある。実は私達は、既に図2の枠組みで新たな実験も行っている。詳細な結果はまだこれからであるが、とりあえず速報(加藤他, 2018)は公表済みであるので、興味があれば参照してほしい。
図2 文字のコミュニケーションにおける感情伝達の今後の研究のイメージ
参考文献
- 加藤尚吾, 加藤由樹, 小林まゆ, 柳沢昌義 (2007). 電子メールで使用される顔文字から解釈される感情の種類に関する分析. 教育情報研究, 22(4), 31-39.
教育情報研究ウェブサイト - Kato, Y., & Kato, S. (2015). Reply speed to mobile text messages among Japanese college students: When a quick reply is preferred and a late reply is acceptable. Computers in Human Behavior, 44, 209-219.
ScienceDirectウェブサイト - 加藤由樹, 加藤尚吾 (2018). 電子メールコミュニケーションにおける感情伝達の正確さとその確信度. 教育テスト研究センター年報, 3, 25-27.
電子メールコミュニケーションにおける感情伝達の正確さとその確信度 - Kato, Y., Kato, S., & Akahori, K. (2007). Effects of emotional cues transmitted in e-mail communication on the emotions experienced by senders and receivers. Computers in Human Behavior, 23(4), 1894-1905.
ScienceDirectウェブサイト